SSブログ

元祖・黒い青春 [本のイケメン もしくはイケメンの本]

 

去年の夏、本屋で、この本のポスターを初めて見たとき、「これはズルイっ!」と思いました。
太宰治『人間失格』(集英社文庫)の新しいカバーを、『DEATH NOTE』の作画家・小畑健が書き下ろしたものです。
確かに、現在の日本で“ダークサイドに堕ちた美青年”を描かせたら、彼の右に出るものはおりますまい。
・・・そりゃあ、売れるでしょ!!

まぁそんなわけで、夏に出た文庫を2月に買ってるのも「今さら」なら、
この年齢(20代の終盤)になって初めて『人間失格』を読んだというのも、けっこう「今さら」な話なのですが、
とにかく、読みました。
読んでみて、読む前に想像していた話とちょっと違うな、と思いました。

おおまかに言っちゃえば、
主人公の葉蔵というイケメンは、裕福な家に生まれて、ハタ目には恵まれた環境に育った秀才なんだけど、
実は対人関係にやたらめったら臆病で、要領を得なくて、世間とゆーモノに全然なじめなくて、
「人好きのするムードメーカー」のキャラを、完璧に演じることでギリギリ生きているんだけど、
酒とクスリと女とで、結局は・・・ という、超暗黒な青春時代の物語です。

しかしこの主人公は、小畑健が描くような、つまりは夜神月のような、切れ味鋭い氷の美青年とは、少し違う気がしました。
葉蔵は、「道化」を演じることにかけては、確かにほぼ完璧だし、
生活に困っても、面倒を見たがる女性がひきもきらない美男子なのですが、
実のところ、いつも内心でビクビクおどおどしているし、かなりいきあたりばったりな人生です。
表紙は、本の中の葉蔵像と違って、何か自信を持っているように見えますよね。

ところで、リネンの想像と違ったのは、主人公像だけではありませんでした。
なんと言うか、本全体の雰囲気が、思っていたほど暗くないのです。
「人間失格」というミもフタもないタイトルと、直後に作者が命を絶ったというエピソードとで、
なんかもう・・・死、絶望、堕落、虚無といったイメージが湧きがちですが、
実際に読み終えてみると、意外に、挑発的な作品だなァと感じるのです。

アル中でヤク中で自殺未遂、たしかに葉蔵は“人間失格”かも知れないよ。
そんなら、葉蔵のこと「人間失格だよ!」って断罪するあんたらは、どんだけ人間合格なんだい?
おれの言ってること、わかる?
この問いの意味、この問いの価値、あんたらに、そもそも理解できるかい?

・・・そういう命題を、ふっかけられているような気分になるのです。
すると、人を見下したように、自信ありげに、挑戦的な三白眼でこちらを見ている表紙の男は、
主人公の葉蔵じゃないのかも知れません。
学生服を着て籐椅子に座って、葉蔵のコスプレで読者を挑発する、太宰治なのかも知れません。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0